ついに変わるか、日本の住宅。

足立建築代表の足立です。

前回のブログに引き続き、気候変動対策についてのお話です。一介の地域工務店が、自社のブログでここまで執拗に環境問題のことを取り上げるのは、ちょっと珍しいかもしれませんね。

でも、それだけ重要だし、他人事にしてはいけない問題なのだということを、ぜひともあなたにも知っていただきたい。そんな気持ちで書いています。

最近ではYouTubeやTwitterで家づくり系の情報を発信する人たちも増え、ユーザーさんも多くの情報に触れられるようになってきています。

下手したら、設計者や職人より、家づくりを検討している素人さんの方が詳しいケースもあるようで…。勉強していない実務者はどんどんふるいにかけられていくのでしょう、これからも。

 

さて、そんななか、2021年2月末から3月にかけて、住宅情報系のSNSでにわかに盛り上がった話題があります。

それは、2/24に公開されたYouTubeライブ「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」のこと。アーカイブも残っていますが、あなたはご覧になりましたか?

念のため、こちらでも動画へのリンクを。

【LIVE配信】第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

2時間を超える会議ですが、消費者にも分かりやすく日本の住宅業界の現状を説明してくれています。

 

まずは、前提のお話からしておきましょう。

前回も取り上げた通り、世界の「気候変動リスク」はすでに取り返しがつかないレベルです。

二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスは、ある程度の量であれば海や森などの自然環境が吸収してくれるのですが、現在、私たちの経済活動によって、その吸収上限の倍量ほどの二酸化炭素が発生しており、結果的に地球温暖化・気候変動の大要因となっています。

世界的にも、この状況を問題視しており、パリ協定で国際的な排出削減方針を打ち出しておりました。日本ももちろんその枠組みに則って国家戦略を作っていたものの、こと住宅建築の領域に関しては、そのアクションがなかなか遅滞していましたね。

しかし、2020年10月の臨時国会で、菅総理が「2050年カーボンニュートラル宣言」を掲げられたことで、風向きが大きく変わって来ています。

2050年のカーボンニュートラル、つまり、排出量と吸収除去量をプラスマイナスゼロにするということですが、そのためには排出量を抑えていく必要があります。

例えば、火力発電や原子力発電は温室効果ガス発生の一因ですが、私たちは潤沢な生活エネルギーというかたちで、その恩恵を受けています。

「これらの発電エネルギーをゼロにして、原始時代の生活に戻りましょう!」なんて、難しいですよね。

でも、それらの単純計算で、それらの発電量を半分にしたら、排出量も半分になるはず。(実際にはもう少し複雑な計算が必要ですが、便宜上)

大型の発電所への依存を半分程度に収縮するために必要なのが、太陽光や風力などの自然エネルギーを利用した、いわゆる『再生可能エネルギー』。地球への環境負荷を抑え、カーボンニュートラルを実現するためには必須のものです。

2050年まで、あと30年を切っているのですが、いち早く対応している他先進国に比べると、日本のアクションは明らかに精細を欠いておりました。

2020年に義務化されるはずだった省エネ基準を、土壇場で撤回するというのは、誰の思惑か分かりませんが愚策としか言いようがありませんでした。(平成11年時点の基準ですよ??)

それらの動きには業界内外から批判も多かったのですが、今回の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて設立された『総点検タスクフォース』が、ようやくその闇に切り込んだ、と、そういうわけなのです。

 

動画では、東京大学の前先生が住宅業界の現状についてかなり批評的に述べられており、また解決策についてもたいへん理性的に提言されておりました。

最終的には河野大臣が、これまで住宅政策を進めてきた国交省の姿勢を強く批判するにあたり、我々のような住宅事業者は「時代が変わった!」と興奮し、本当に涙を流しておりました。真面目に家づくりを行ってきた方々は、きっとみなさん同じ気持ちだったのではないでしょうか。

 

私個人としても、良質な住宅を地域に普及させるための活動に尽力してきたつもりです。「2020年に省エネ義務化されれば、きちんとやっている事業者が栄える社会になるだろう」というのが心の支えでした。

・工務店が断熱の基本を学ぶための「野池学校」(2011年)
・設計者が温熱計算などの実務を身につけるための「温熱教室」(2013年〜)
・エコハウスの最高峰とも言える「自立循環型住宅設計」の講習(2016年)
・住宅医スクールの浜松開催誘致
・中古住宅流通促進協議会の設立
・住宅省エネルギー技術講習会A講師

などなど、本当に骨身を削って地域の底上げを目指していたな、と…

しかし、2019年末に省エネ基準義務化がドタキャンされたことで、これまでの努力はなんだったんだ…と、とてもやるせない気持ちになったのを覚えています。

前先生のプレゼンは、私たちのそんな悲しさや鬱憤を晴らしてくれました。数十年変わらなかった住宅業界の暗部がこうして明るみに出るのは、本当に「ゲームチェンジ」です。

遅れてしまった省エネ基準適合義務化は、2025年になるのでないかと言われています。

5年も遅れてしまったのに当初と同じ断熱性能で「UA値0.87以下」では、最終目標である「2050年カーボンニュートラル」は実現できないでしょう。少なくともHEAT20のG1グレードと同程度の数値が義務化されるべきです。前先生が提唱しているバックキャスト(最終目標から逆算して目標を設定すること)で、住宅施策を検討していってもらうことを強く願っています。

 

そして、今から家を建てたいと思っているあなた。要注意です。2025年に適合義務化する家を建てておかなければ、将来的にあなたの家は基準に適合していない“違法建築”ということになります。(基準法上は「既存不適格」というものになります)。ぜひ、お気をつけくださいませ。

いずれにしても、業界の現状やこれからの方向性を知るために、『総点検タスクフォース』、ぜひご覧いただきたいと思います。未確認の方は、以下のリンクよりどうぞ。

【LIVE配信】第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

それでは、また。

 

足立建築
足立 操